ゲイでノンセクシャル~人生の雨宿り~

雨ばかりの人生に、雨宿りができる場所を作りたい

飛ばない紙飛行機

 今回、自作のショートショートを書き上げました!(今年最後の挑戦です!)

完結させることができた小説は初めてで、投稿するのももちろん初めてです。

他の小説投稿サイトに挙げてもよかったのですが、まだまだそんな腕前でもないと

思い、ブログの方に挙げたいと思います。良かったら意見や感想を教えてください。

それではどうぞ!

 


「給食のトマトなんて大嫌いだー」

僕は黒のマジックで、でかでかと書いた。

「おっ大ちゃんいいね。僕もトマト嫌だもん」

どうやら翔ちゃんもトマトは嫌いのようだ。

「翔ちゃんは何かいたの?」

「えへっ、ひみつ!」

「えーずるい!」

翔ちゃんはそそくさと紙を折り始めてしまった。

「じゃ僕もヒミツ書いちゃうもんね」

「えー教えてよ」

「ヒミツはひみつにするからひみつなんですぅ」

「じゃぼくのもひみつね」

気付けば、翔ちゃんは右手に紙飛行機を持っていた。

「あっここ曲がっているよ」

「いいの、飛べばいいんだよ飛べば」

「きれいに折らないと飛ばないよ」

僕は、一つ一つ丁寧に紙を折っていく。

「いや飛ぶんだ」

「いや飛ばないって」

「じゃ、どっちが遠くまで飛ぶか競争しよう」

「いいよ、負けないからね」

僕たちは、作り立ての紙飛行機を片手に、河原に飛び出した。

                 ◆

「おいっ、青山起きろ」

突然頭をはたかれた。汗ばむ左腕にはおでこの跡がくっきりと付いている。

「まったく、授業中に寝るなと何度も言っているではないか」

先生は俺と目を合わせてはくれなかった。代わりに遠くにいるはずの翔吾と目が

合ってしまう。にやにやした顔を向けて、俺をおちょくってきやがる。

「おいっ、話を聞いているのか」

「あっすいません」

あいつのせいで、余計に先生を怒らせてしまった。覚えておけよ。

「まったく、目を覚ましてもぼおっとしているとは。次のテスト悪かったら補習だかな」

「補習はやめてください」

「なら授業中にしっかり起きておくんだな」

「えー」

最近はどうもやる気が出ない。この暑さで脳が溶けてしまったのだろうか。

「えーじゃない、起きるのが当たり前なんだよ」

「はーい」

「ったく」

悪態をつきながら、先生は教卓に戻っていく。

何が起きるのが当たり前だ、生徒が寝ないような授業をする方が悪い。

「えっと、じゃ答え合わせをしようか」

結局、この授業はノートに先生の悪口を書いただけで終わってしまった。

窓を見ると、溢れ出す太陽の光と、微かに残る飛行機雲が俺をあざ笑っていた。

                ◆

 放課後、辺り一面がオレンジ色に染まっていた。

「大ちゃん、一緒にかーえろ」

いつものように翔吾が駆け寄ってくる。もう中学生であるというのに。

「ほっといてくれ」

「まったく、ふてくされちゃって」

こいつは空気というやつを読む気がないらしい。

「ふてくされてはいない。ただ一人にさせてくれ」

「はいはい、一緒に帰るよ」

「おまえ、俺の話聞いていたのか?」

「大ちゃんだって先生の話聞かないでしょ」

「そ、それとこれとは別だろ」

「いや一緒だよ」

痛いところを突かれてしまった。こうなるとあいつはどうやっても折れてくれない。

「……わかったから、さっさと帰るぞ」

「そうだ、久々にあれやろうよ」

「あれってなんだよ」

「あれだよあれ。紙飛行機」

嫌なことは二度三度と積み重なるものである。

                  ◆

「久しぶりだね」

翔吾は嬉々とした表情で、赤城と書かれたマジックを棚から持ってきた。

「そのマジックまだ持っていたのか」

「そう、あれから全然使っていなかったからね」

そういえば翔吾の部屋に来たのも久しぶりだ。

いつから来なくなったかはいまいちピンとこないが、部屋は当時から変わっていない。

「はい、この紙使っていいよ」

「あれ、もう書いたのか?」

「うん、書くこと決めていたから」

そういえばあいつの書いた文を教えてくれたことは一度たりともなかった。

「何て書いたの?」

「秘密は秘密にするから秘密なんでしょ?」

「それはそうだが……」

「ほら、早く大ちゃんも書きなよ」

書こうとするが、ペンはなかなか動かない。頭の中にモヤモヤが現れては、

風に吹かれて飛んで行ってしまう。

「そういえば今日大ちゃん先生に怒られてたね」

「あっ、思い出した。お前怒られてる俺をずっと笑ってただろ」

「あっ、余計なこと言っちゃった……」

怒る俺を横目に、翔吾はにたにたし続けていた。

「あっじゃないだろ、お前のせいで余計に怒られたんだからな」

「ごめんごめん」

「あっそういえば」

俺は鞄から授業中のノートを取り出して、一ページを破いた。

「えっそれは何なの?」

「授業中に書いた先生の悪口」

その言葉で、翔吾の顔が明らかに曇った。

「えーっそれ紙飛行機で飛ばして大丈夫?」

「大丈夫だろ、見つかることはないし」

「……」

翔吾はさっきまでの元気が噓のように黙ってしまった。

ただ、黙々と紙飛行機をつくっている。

「ねぇ本当にそれ飛ばすの?」

「当たり前だろ、そもそも嫌なことを忘れるために紙飛行機を作っているからな」

そう、この紙飛行機は決まって嫌なことがあった日に飛ばしていた。

「ん?これはなに?」

翔吾は引き出しからボロボロの紙を取り出した。折り目が付いていて

今にも破けそうな紙だった。

「いいから読んで」

「……これって」

手渡された紙には、「翔ちゃんのいじわる」と拙い文字で書かれていた。

「そう、大ちゃんが昔飛ばした紙飛行機だよ」

「なんでお前が持っているんだ……」

「僕の家の郵便受けに入っていたんだ」

さっきまで聞こえていなかった、ひぐらしの声ばかりが頭に響いている。

「大ちゃんは、なんで紙飛行機をしなくなったと思う?」

翔吾の目は、何もかも吸い込んでしまいそうなほど深い穴が開いていた。

「僕が突然学校を一週間休んじゃったのは覚えている?」

確か小学6年生の時、ちょうど今日のような真夏だったような気がする。

「……」

「それはこの紙飛行機を見てショックだったからなんだよ」

底知れぬ何かがやってくるのを感じた。

「まって、そんなつもりじゃ……」

「違う、そうじゃない」

一切風が吹き込まない部屋がたまらなく息苦しい。

「大ちゃんに裏切られた気がしたんだ。直接言ってくれずに紙飛行機を飛ばして

なかったことにしようとされた」

いつもは自然と合っている目線がすれ違う。

「その後大ちゃんがお見舞いに来てくれたよね。その時に言った言葉は覚えている?

「……ごめん、本当にごめん」

目の前の翔吾の顔が歪んでいく。目にたまった水たまりは、ひどく濁っていった。

「泣かないで、もう十分だから」

ああ、なんて悪いことをしてしまったのだろうか。

なんで昔の俺は「嫌なことは紙飛行機で飛ばしてしまいな」なんて声をかけたんだ。

今翔吾が俺にしてくれているようなことをどうしていてあげられなかったんだ。

「……ごめん、本当にごめん」

謝ることしかできない自分がどこまでもみじめであった。

翔吾の優しさがどこまでも残酷であった。

「僕もいじわるしてごめん。だからおあいこにしよう」

「……本当にいいの?」

「だって僕たち友達でしょ?」

気付けば翔吾の顔に温もりが戻っていた。

               ◆

「ここに来るのも久しぶりだね」

「……ごめん」

「あっそういうつもりじゃなくて」

俺らは紙飛行機を持って、河原にやって来た。

あんなにあったオレンジ色は空からほとんど消えてしまっている。

「結局、大ちゃんは何を書いたの?」

「晩ご飯のトマトが嫌いだって書いた」

「えーまたそれなの?」

本当は過去の自分への怒りを書きたかった。でも、それは飛ばしてはいけないと

教えてもらった。

「大ちゃん、ここ曲がっているよ」

「大丈夫、きっと飛ぶから」

「じゃ競争ね」

「ああ」

二人で同時に飛ばした紙飛行機は、それぞれ明後日の方へ飛んでいく。

一方は前へ前へと、一方はふらふらと風に流されている。

空には一番星へと突き進む飛行機が、軌跡を刻み込んでいた。

                ◆

「おっ青山が起きているなんて珍しいな」

「ひどいです。授業中は起きているのが当たり前なんですよね」

「お前にとっては当たり前じゃなかったがな」

よく晴れた昼下がり、空には入道雲がそびえ立っていた。

「今週末は台風が来るそうだが、まさか青山が起こしたんじゃないだろうな」

「違いますよ。先生だってさっき教科書忘れて走ってましたよね」

先生は前髪が立つほど汗をかいていた。

「うっ、なんでそれを知ってるんだ……」

「えっ、本当だったんですか?」

「あっ、カマかけやがったな」

ていが悪くなったのか、先生はそそくさと教卓へと逃げてしまった。

その姿はまるでカメレオンのようである。

「答え合わせをしよう。じゃ、青山」

「えっ、ひどい」

「聞いていたならわかるよな」

焦る俺の目には、にやにやした先生と翔吾が映っていた。

                  ◆

「分かりました。青山さんにも伝えておきます」

朝から休校の電話がかかってきたようだ。外は黒くうごめく暗雲と、

轟音を立てる突風で埋め尽くされている。

「翔吾、新聞取ってきてくれない?」

「母さん、台風だよ。新聞来てるの?」

「馬鹿言わないで取ってきなさい。そんなに言うほどひどくないんだから」

子供遣いが荒い親である。しかたなく外に出ると、郵便受けにはビニール袋に

包まれた新聞がしっかりと収まっていた。僕は足早に家に戻ろうとしたが、

屋根の上にあるはずのない「あれ」が引っかかっているのを見てしまった。

「翔吾、何しているの。早く家に戻りなさい」

僕を呼ぶ声がした。今はそれどころではない。向かい風のせいでうまく呼吸が

できなった。あの位置ならば、部屋の窓から届きそうである。

「翔吾、何していたの。そんなに外にいたら危ないでしょ」

「ごめん、ちょっと部屋に戻ってる」

「ちょっと翔吾、どうしたの?」

なんとしても、あれを取り戻さなければ。急いで階段を駆け上がり、

部屋の窓を開ける。僕は、窓から体を乗り出してあれを探した。

しかし、もうそこにはなかった。

 このとき僕は、友達と同じ過ちをしてしまったことに気づいた。

本人に直接言わずに、紙飛行機で飛ばしてなかったことにしようとしたのだ。

でも、僕はきっと悪くないのだ。だってこんなものないほうがいいに決まって

いるんだ。友達のままでいるためには、この「好き」って思いなんて飛んでしまえば

いいんだ。でも僕の紙飛行機は、なぜか全然飛んでくれなかったんだよなぁ。

大ちゃんの紙飛行機は探すのが大変なほど飛んで行ったのにね。